1月19日

「ねえ。書き上がった小説読ませてよ。」
相方はなにも喋らずに書き上げた小説を開いてパソコンの前から離れた。


今回はどんな話に仕上がっているのだろう。
何度か今書いている小説はどんな内容なのか尋ねたことがあるが、相方はまともには答えてくれなかった。別に意地悪をしていたわけではないだろう。ただ、一生懸命にストーリーを考えて書いている段階だから断片的にしか説明出来なかったのだろう。


 相方は長編小説しか書かなかった。短編を書く才能がまだ花開いてなかったからだろう。
相方は去年の2月頃から仕事を辞めて小説作りに没頭していた。今回出来上がった作品で3作目になる。


 今回の話はいじめられっこの中学生の女の子が主人公であると以前に聞いたことがある。
9割がたはそのいじめられっこの女の子の視線で描いているが、残りの1割はいじめていた女の子の視線にたって描いたものだと言っていた。


 具体的なストーリーはなにも聞かされていなかった為、新鮮な気持ちで相方の文章を読むことが出来た。


 すげえな。素直にそう思った。いじめにあっている女の子の心情が凄くリアルに描かれている。その女の子があっているいじめというものも、とてもえげつない。だけど、女の子は挫折しない。立ち向かっていく姿勢があまりに力強くて泣けてくる。


 そして、エンディングがまた悲しくて美しい。


 正直言って、文章の描き方がとても美しいというわけではない。だけど、キャラクターの心理描写がめちゃくちゃ綺麗なのだ。


 一般受けするような文章なのかと聞かれればそうではないかもしれない。だけど、わたしは相方の描く文章が大好きだ。少し不思議でもあった。これだけわたしを感動させる文章が書くことが出来るのなら、もっと一般受けする文章も書けるのではないだろうかと。


「別に誰にでも受けるような文章が書きたいとは思っていないからな。オレとお前がいいものだと思えるものが創れれば今はそれでいい。」
 相方は異常なくらいに大衆の意見というものを意識しない。自分が納得出来ればそれでいいと考える。ただし、自分の価値観を一般の人の延長線上にあると信じている。今は受け入れられなくても10年、50年後に受け入れてもらえればそれでいいと考えている。だから自分の作品にいい評価してくれる人間には必ずこう言うのだ。
「お前の小説を読む視力はとても悪い。まともな視力があればオレの作品など評価出来るわけがない。」


 自分の進むべき道をはっきり持ってはいるが、それが一般人に受け入れられるものではないということをよく理解している。自分が時代の4,5歩先を行っていることもよく分かっているのだ。
 だから、自分が受け入れられる為にはいい作品を書くことではなく、大衆の視線を自分に集めることが重要であるということを分かっているのだ。


 いいよ。それでいいと思う。10年後にわたしあんたの作品が昔から素晴らしかったものだと言い伝えよう。売れるのに10年かかった理由はいいものを書くのに時間がかかったわけではない。時代があんたに追い付くのに10年かかっただけだと語り継ごう。


 10年後、あんたが死んでいても遺した作品だけは埋もれさせないよ。わたしがきちんと受け継いでいくから。


 わたしの方が永く生きていられればね。

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