4月1日

今日は着任式。


朝、ホテルを出るときに相方がこんな言葉を送ってくれた。


「まずは第1歩を踏み出す勇気。動き出してしまえば経験が何かを教えてくれる。」


何かを始める前からあれこれ考えても仕方がない。せいぜい妄想しか出来ない。1歩を踏み出せば経験という武器が使えるという意味らしい。


今日からわたしは副社長。
だけど、年明けに神社で願ったなにものかとは、これのことじゃない。


大丈夫。そんなにわたしの視線はずれていない。


4月中の仕事は、年度経営計画を立てることだ。


「昨日」を必ず活かせる様な人間になりたい。
成長の物差しは絶対必要であり、そのひとつに「昨日」があるのだから。

3月28日(振り返り)

「申し訳ないけど、わたしは名古屋に戻ってくることは出来ない。今は、わたしもそうだけど相方がとても調子が悪い。あの人を置いて行くことなんて出来ないの。これがわたしの出したひとつめの答え。」


「ひとつめ?」


「そう。ふたつめは答えというよりお願いよ。副社長なんて肩書はいらない。だけど、わたしはまた葵ちゃんと仕事がしたいの。だから、わたしが相方と一緒に住みながら出来る仕事を与えて貰えないかな。」


「実に、英奈らしい答えね。」


「だけど、それが正解よ。もしも英奈があの人を置いてひとりで名古屋に戻ってくると言うのなら、あたしはこの話を無かったことにするつもりだった。そして、それでも仕事をしたいと言ってくれば迎え入れるつもりでいた。」


「実に、葵ちゃんらしい課題ね。」


「英奈。4月からまた一緒に頑張ろう。あたしにはやっぱりあなたが必要なの。しばらくは名古屋に泊まるといいわ。もちろん会社の経費で負担するわ。副社長の出張費としてね。」


こうして、わたしは4月から葵ちゃんの会社の取締役副社長になることになった。

3月26日(振り返り)

「もう一度名古屋に帰ってきてあたしと一緒に仕事をしない?」
 葵ちゃんからの突然の誘いに言葉が出なかった。


「今、あたしと現場との間には大きな壁がある。経営にも現場にも理解の深い英奈に戻ってきて欲しいの。それなりのポストは用意するわ。副社長と言うことでどうかしら。」


 葵ちゃんは気前がいいからかなりのお給料も用意してくれるだろう。でも、お金のことなんかよりわたしを必要としてくれることがなにより嬉しかった。


 だけどわたしは仕事より相方と一緒にいることを優先して2年前に退社したのだ。病気の相方をひとりきりにすることなんて考えられない。


「申し訳ないけど、少し時間をくれるかな。」


葵ちゃんはそういうわたしを笑顔で見送ってくれた。

3月25日(振り返り)

 葵ちゃんから電話があった。
 どうしても3月中に会って話がしたいと言ってくれる。


 相方とふたりで新幹線に乗っていざ名古屋へ。
 だけど、電話をかけてきたときの葵ちゃんの真面目な声色が気になって仕方がない。


 名古屋駅からタクシーにのって中区にある葵ちゃんの自動車整備工場に辿り着いた。
 なんだか、わたしのよく知らない社員がたくさんいる。
 そう言えば葵ちゃんがよく言っていた。
 使い道のはっきりしない繰越金を増やすよりは仕事をしたくても出来ない人をたくさん雇用したいのだと。


 懐かしい顔もたくさん見つけた。
 ゆかもそのひとり。
 こいつは年はわたしのひとつ上だけど、入社はそんなに早くなかった。
 だけど優秀だったため、どんどん出世してわたしがここを去るときは取締役にまで昇進していた。


 ゆかに案内されて社長室に通された。
 5分程立つと信じられない程の美貌を持つ葵ちゃんが現れた。


 大事な話だからと相方は席を外すように言われた。
 わたし達がこの会社を辞めたのは約2年前。
 わたしは専務で、相方は取締役だった。


 そんなわたし達を呼ぶからには余程重要な話があるのだろう。


 続きはまた明日。

3月23日

昨日から名古屋に来ています。


葵ちゃんとの再会。
嬉しいんだけど、色々と難しい話になっています。


ちょっと忙しいので、暇が出来たら更新します。


松谷 英奈