2月22日

「これ。昨日英奈が書いてくれた龍平の持つ恋愛観に対する姫奈の反応。これを受けて龍平がさらになんて語るのかを考えてみて。明日までに。」


 いつもパソコンに向かってなにかを頑張っている相方をみて感心することは多かったが、具体的には毎日どんな作業をして、どれだけの成果を上げているのかは知らなかった。
 わたしが1週間近くかけて考えた龍平という男の恋愛に対する思想に対する答えを相方は数時間で作り上げてしまった。初めて、彼の力に驚きもしたし感心もした。それすら通り越して怖ろしささえ感じた。
 相方の作った姫奈の言葉は、彼の思想に近いものではあるけれど、確かに姫奈という女の言葉を使って描かれている。彼の中で姫奈という女はもう出来上がっているのではないだろうか。わたしの力を借りたいと言ってくれるのは有難いけど、わたしの踏み入れる隙間なんか残っていないではないだろうか。そう考えるとより一層怖ろしくなった。


 やはりわたし達ふたりの間にある境界線は簡単に足を踏み超えていいものではないのだろう。


 以下が相方がたった数時間で作り上げた中馬 姫奈という女の恋愛に関する思想だ。姫奈の思想が道徳的に正しいとか間違っているとか言う話はさておいて、これだけ思想の強くて、それを整然とした言葉で表現出来る彼女の能力の高さに舌を巻くばかりである。


龍平の恋愛観に対する中馬 姫奈の回答


 あなたの気持ちはよく分かったわ。気持ちはね。ただ、あなたの愛の解釈についてはやや納得がいかない。あなたは容器の中に純愛と様々な欲望が混じりあったものを愛と表現するけれど、純愛をいうものの存在が非常に怪しいわ。容器の中に入っているものは相手を思いやる気持ちや慈しむ気持ち、そしてあなたのいう欲というものではないかしら。それが愛というものであり、それこそが真実であり、唯一絶対の愛ではないかしら。あなたの語る純愛というものには性欲も独占欲も含まれていないのでしょう。そんなものが果たして愛といえるかしら。あなたの語る純愛というものはプラトニックラブとは違うわね。プラトニックラブには性欲が含まれていないだけで、他の欲は十二分に含まれているわ。そもそもわたしはプラトニックラブさえも否定するけどね。恋愛とは肉体的な欲求より、精神的な結合を大切にするべきですって。肉体的な繋がりを避けることで精神的な繋がりが濃くなるですって。馬鹿げているわ。ろくなSEXをしたことがないものの戯言であるとしか思えない。あなたにも同じことが言えるけどね。まあ、いいわ。あなたにはわたしがしっかりとSEXというものの素晴らしさを教えてあげるから。
 性欲のない恋愛なんて認められないわ。恋愛とは性欲の詩的表現を加えただけのものなのだから。男であろうと女であろうと性欲はあるの。食欲や睡眠欲のない人間なんているかしら。いるでしょうね。ただ、彼らは病気なの。決して健康な人間ではないわ。性欲だって同じこと。持たざるものは健康な人間と言えないわ。性欲がないなんて自ら口にする人間は、己が貧しいものであると言っているだけなのよ。毎日草ばかり食べている人間がもう草なんて食べたくないと言っているようなもの。肉も魚も食べたことがないから、自分には食欲がないものだと勘違いしているだけなのよ。あなただってSEXのことなんてなにも知らないでしょう。童貞に毛が1本生えた程度の男なのだから。太くいきりたった陰茎を膣の奥まで差し込んで激しく腰を振り合う快感なんて想像もつかないでしょう。貧しきもの。
 性欲というものが人間の備えるべき欲ではないというのなら、これからの命は全て人工授精で創り出すといいわ。そんな人間が作る世界というものがどんなものになるのか想像つかないのかしら。
それにね。あなた、自分が特別な心や身体を持っているように言うけど、わたしだってあなたの身体にそんなに惹かれているわけではないのよ。わたしもあなたと一緒。SEXだけでいったらあなたよりずっといい男がいると思うもの。でも、安心して。心はあなたに奪われたままだから。
 そんなこと言われてあなた嬉しいの?幸せなの?あなたはただデリカシーと知識と経験が欠如しているだけ。ただ悪戯にわたしを傷付けただけだということを自覚して頂戴。


 姫奈の言葉に対してわたしは龍平の反論を書かなければならない。自由に書いていいと言われた前回とは違って今回はひとつの課題を与えられた。
 龍平は全力で姫奈に反論しなければならないということ。自分の抱く愛情こそが至高の感情であることを主張しなければならないということ。


 コラムやブログを書くときに使う脳みそとは全く違った部分をフル回転させなければいけない。荷が重い。


 それでもちょっとだけ楽しい。
 苦しいけれど楽しい。
 初めて、葵ちゃんの自動車整備工場で働いたときに感じたあの感覚と似ている。


 わたしは笑った。

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