1月31日

午後15時過ぎ。
やっと相方がはっきりと目を覚ましてくれた。


バカバカバカ。
どれだけ心配したと思ってんだよ。他人の生き死になんて興味はないけれど、あんたの無事をどれだけ祈ったか分かってるのか。


思わず相方に抱きついて涙を流してしまった。
良かった。あんたが生きていて。
良かった。わたしにもまだヒトの心が残っていて。


ふたりで医者の話をよく聞いたが、やはり倒れた原因は過労にあるらしい。運動不足にも原因はあるらしい。栄養失調の疑いもあるらしい。


 別にわたしはあんたの嫁じゃないから、健康管理や栄養管理までは出来ないよ。仮に嫁だったとしても出来ないけどさ。
 だけど、あんたを気に掛けることくらいは出来るから。うざいなんて言わずにわたしの声も聞いてくれよ。もう、こんなに心臓を震わせるのはごめんだよ。何より、あんたが心配だよ。


 カレンダーを見つめて相方は悲鳴を上げた。そうだよ。あんたは3日間も眠り続けていたんだよ。
 しかし、相方が気に病んだのは寝込んでしまった日数ではなかった。
 1月31日。今日締め切りの原稿がふたつもあるという。相方は慌てて顧客に電話をかけた。どうやら、先方もこちらの事情を汲み取ってくれて、締め切りを延ばしてくれるという。たった2日だけだが。
 無理だよ。まだ入院してなきゃいけない身体なんだ。無理しないでくれ。そう願っても相方は無理をする男だ。自分の身体に異変があっても他人との約束を優先する男だ。


 だけど、そうやって無理しなければならないのは昔の話だろ。
 今はわたしがいるじゃないか。しんどいことがあったらわたしを頼ってくれ。あんたの持つ能力の1/100くらいの力しか持っていないけどさ。2日間くらいだったらなんとかあんたの代理を務めることくらいやってみせるよ。だからもう少しだけ休んでいてくれ。


 必死で相方を説き伏せた。明日一日でふたつの原稿を終わらせるという条件で。残りの一日は相方がチェックと書き直しをする時間に充てるということで。


 これから必死になって原稿を仕上げなくてはならない。だけど、相方の傍も離れたくはない。だからこれからパソコンを取りに一旦家に帰って、夜はここで作業させて貰おう。


 もう嫌なんだ。自分の力が足りないせいで誰かが苦しむのは。
 力が足りないことは罪なことだと昔あんたに教わったのだから。ほんの少しでいいから安心してくれ。
今のあんたもひとりじゃないんだよ。
そしてわたしもひとりじゃないんだ。
お互い大切な人の為に生きていく、お互いにかけがえのない存在になったんだ。
だから、もう少しだけおやすみなさい。

×

非ログインユーザーとして返信する