1月20日

 いよいよ本格的に「平成という時代を振り返る」というテーマのコラムに着手する。わたしは平成という時代に流行した音楽を振り返った記事を書くことにした。わたしなりにいい歌だなと思ったものはとても数が多いけど、その曲をリストアップしてみて感じたことがある。なんだか、人を応援する歌がとても多かったような気がするのだ。
 とても直接的な表現で人を応援するものもあれば、遠回しに自分を応援するものが流行ったのではないかと思う。
 相方が挙げた平成を代表するゴリラが歌う歌もそのひとつだろう。わたしの心の中にいつまでも残っている歌は「負けないで」というタイトルそのままの応援ソングが一番印象的だ。
 「世界にひとつだけの花」もその類だといえると思う。「LOVEマシーン」も同じだ。
どれも心に残っているし、セールスも半端じゃない。平成を代表する歌だといっても過言ではないだろう。


 もうひとつわたしが気が付いたのはプロデューサーブームというものだ。小室さんに始まり、つんくさん、奥田さんや秋元さんなどを代表とするプロデューサーが多くの人気楽曲を作りだした。彼らが平成という時代の音楽シーンを引き上げていったのは事実だろう。華原ちゃんや安室ちゃん、篠原さん。ハロプロ。PUFFY。そしてAKB。平成を代表する歌手のほとんどが優秀なプロデューサーに育てられたんだと思う。


 そしてもうひとつ平成の音楽シーンを語るうえで欠かせないのがV系というジャンルであるとわたしは思っている。X JAPANにGLAY、ラルクアンシエル。みんな最初は見た目のかっこよさとか美しさで注目を集めたのだとは思うけど、彼らは平成という時代の音楽を大きく変えた存在だと思う。歌だけではなく音楽そのものに大きな影響を与えたとわたしは思っている。V系が流行る前まではやはり歌というものに大衆の視線は集まっていた。いい歌イコールいい曲だった。だけど、V系の人達は曲のよさというもの、演奏のよさというものを私たちに教えてくれたのではないだろうか。
 それまで、ほとんど目立たなかったベーシストやドラマーというものに目を向けさせたのがV系の凄いところだと思っている。曲を聴くときにボーカリストの声だけを耳で追っていた大衆にベースやドラムのカッコよさを教えてくれたのはV系のバンドだったと思っている。


 わたしは実は邦楽より洋楽の方が好きだ。Limp BizkitとかLinkin Parkとか。歌のなんてどうでもいいと言ったら言い過ぎだけど、歌詞なんてどうでもいいんだ。曲が気持ちよければ。その気持ちよさを味あわせてくれるのは洋楽しかないと思っていた。だけど、そうじゃないよということを日本のV系が教えてくれたのだ。
 一度よく聞いてみて欲しい。歌じゃなくて曲を。
 わたしは4つ打ちのドラムが好きではないし、リズミカルなベースも好きではない。流れるようなドラムの上にメロディアスなベースが乗っかっているのが聞いていてとても気持ちがよい。


 あまり細かな音楽性にばかり触れても仕方がない。あくまでわたしが書かなきゃいけないのは「平成という時代」なのだから。


 平成という時代は音楽の価値観を大きく変えたと思っている。歌の時代は終わり、曲の時代に変わったのだ。わたしからすれば有難い変化なのだが、そのことをどうやって読者に伝えるか。
 わたしの文章力にかかっている。なるほど。これが心地のよいプレッシャーというものか。わたしの相方はいつもこの風を感じているのか。
 そう思うとやる気が出て来た。わたしの声を聞いてひとりでもいいから歌の時代から曲の時代に変わったのだということを知ってもらいたい。


 Youtubeで好きな曲を探してみたが、やはり歌は聞くことは出来てもいい曲は動画では聞き取れない。どうしても聞き直したい曲だけレンタルショップでCDを借りる為に新しいリストを作り直した。

1月19日

「ねえ。書き上がった小説読ませてよ。」
相方はなにも喋らずに書き上げた小説を開いてパソコンの前から離れた。


今回はどんな話に仕上がっているのだろう。
何度か今書いている小説はどんな内容なのか尋ねたことがあるが、相方はまともには答えてくれなかった。別に意地悪をしていたわけではないだろう。ただ、一生懸命にストーリーを考えて書いている段階だから断片的にしか説明出来なかったのだろう。


 相方は長編小説しか書かなかった。短編を書く才能がまだ花開いてなかったからだろう。
相方は去年の2月頃から仕事を辞めて小説作りに没頭していた。今回出来上がった作品で3作目になる。


 今回の話はいじめられっこの中学生の女の子が主人公であると以前に聞いたことがある。
9割がたはそのいじめられっこの女の子の視線で描いているが、残りの1割はいじめていた女の子の視線にたって描いたものだと言っていた。


 具体的なストーリーはなにも聞かされていなかった為、新鮮な気持ちで相方の文章を読むことが出来た。


 すげえな。素直にそう思った。いじめにあっている女の子の心情が凄くリアルに描かれている。その女の子があっているいじめというものも、とてもえげつない。だけど、女の子は挫折しない。立ち向かっていく姿勢があまりに力強くて泣けてくる。


 そして、エンディングがまた悲しくて美しい。


 正直言って、文章の描き方がとても美しいというわけではない。だけど、キャラクターの心理描写がめちゃくちゃ綺麗なのだ。


 一般受けするような文章なのかと聞かれればそうではないかもしれない。だけど、わたしは相方の描く文章が大好きだ。少し不思議でもあった。これだけわたしを感動させる文章が書くことが出来るのなら、もっと一般受けする文章も書けるのではないだろうかと。


「別に誰にでも受けるような文章が書きたいとは思っていないからな。オレとお前がいいものだと思えるものが創れれば今はそれでいい。」
 相方は異常なくらいに大衆の意見というものを意識しない。自分が納得出来ればそれでいいと考える。ただし、自分の価値観を一般の人の延長線上にあると信じている。今は受け入れられなくても10年、50年後に受け入れてもらえればそれでいいと考えている。だから自分の作品にいい評価してくれる人間には必ずこう言うのだ。
「お前の小説を読む視力はとても悪い。まともな視力があればオレの作品など評価出来るわけがない。」


 自分の進むべき道をはっきり持ってはいるが、それが一般人に受け入れられるものではないということをよく理解している。自分が時代の4,5歩先を行っていることもよく分かっているのだ。
 だから、自分が受け入れられる為にはいい作品を書くことではなく、大衆の視線を自分に集めることが重要であるということを分かっているのだ。


 いいよ。それでいいと思う。10年後にわたしあんたの作品が昔から素晴らしかったものだと言い伝えよう。売れるのに10年かかった理由はいいものを書くのに時間がかかったわけではない。時代があんたに追い付くのに10年かかっただけだと語り継ごう。


 10年後、あんたが死んでいても遺した作品だけは埋もれさせないよ。わたしがきちんと受け継いでいくから。


 わたしの方が永く生きていられればね。

1月18日

「出来た!」
 相方が珍しく大きな声を出すのでびびってしまった。どうした?なにが出来たんだ?
「あ~。長かった。結局構想から仕上がるまで4か月もかかったのか。ちょっと時間かかり過ぎだな。」


 ああ。毎日一生懸命書いている小説の話か。そう言えば今、最後の詰めの段階だって言っていたな。もう完成なのか?
「完成とはいえないけどな。まあ、一応形にはなった。もっともっと工夫するべき点とかはあるんだろうけど、それは今のオレのレベルでは難しいな。もっと本を読んで勉強しないとな。」
 本当に真面目だね。それに相変わらず自分にはお厳しい。どんなに努力を重ねて積み上げたものでも、決して相方は満足するということがない。達成感を感じたことがないと言っているくらいだからね。


 わたしも大概だけど、あんたはかなりのド変態だよ。達成感を感じないならいつ心が落ち着くんだい。
「別に心が落ち着く時間なんてたいしていらないよ。オレはものを書いているときが一番興奮しているから。心を落ち着かせるなんてもっと爺になってからでいい。」
 あっそ。じゃあ年中興奮しているわけだ。さすがド変態だね。でも、本当に達成感がないの?達成感がないのにそんな努力を続けられるの?
「大きな達成感はないよ。やらなきゃいけないこと、やりたいことが身の回りに溢れているんだから、そんなものに浸っている暇はない。でも寝る前に小さな達成感を感じて眠ることが出来ているのだから十分幸せだ。」


 そう言える相方が羨ましい。そうだね。あんたはいつだって自分の価値観だけは大切にしていきたもんね。誰かに褒められたり、認められたりすることを望んでいるんじゃないもんね。自分が納得出来ればそれでいいんだもんね。
 だけど、今日だけはわたしがお祝いしてあげるよ。たいしたことはなにも出来ないけどさ。


 立ち上がって背伸びをしている相方を後ろから抱き締めた。本当、このくらいしかしてあげられることはないんだよ。


「英奈。ごめんな。」
わたしの手を握り締めて相方は言った。
なに?なんかわたしに謝ることなんてあるのか。
「オレがまともな仕事をしていれば、毎日旨いもの食わせてやれるのにな。お前に似合う服をたくさん買ってやれるのにな。情けない思いをさせて悪いな。」


 バカだね。わたしはそんなもの望んでなんかいないよ。それに昔は散々わたしに贅沢させてくれたじゃないか。あんたがエリートだったときに。
 あんたは自分の意思でエリートの道から外れたんだろう。道のない荒野を歩くことを選んだんだろう。それにまたあんたは一番になる日が来るさ。誰も走っていない方向にひとりで走っているんだもん。時代があんたの方を向いたときにはもう誰も追いつけない場所まで辿り着いているさ。


 そう。この男も昔は立派なスーツを着て、いい車に乗って、いい女を連れていい酒を飲んでいた。でも、失くしてしまったものはたかだかそれだけじゃないか。


 大切なものはなにもなくしていないよ。わたしのほうこそ悪いね。でっかい荷物を抱えさせてしまって。


 でかい荷物を背負っている背中はでかかった。ここなら、いくらわたしでも堕ちてしまうことはない。安心していられる場所がある。だからわたしは幸せだよ。

1月17日

 昨日の続き。


「ねえ。英奈、わたしと一緒に仕事しよう。」
葵ちゃんは頻繁にわたしに電話をかけてきた。
彼女はもうキャバクラの仕事はやめていた。本気で自動車整備工場の後を継ぐつもりらしい。
「話を聞くだけでもいいから。」
というので、何度か夕食を食べながら仕事についての話をした。
 どれだけ、好条件でわたしを雇ってくれるのだろうということばかり気にしていたわたしには、彼女の話は全く魅力がなかった。


 月に30万程の給料で、朝8時から夜9時くらいまで働いてくれという。仕事内容は車の整備の補助。将来的には、もっと経営寄りの仕事をさせたいと思っているけどまずは自動車整備という仕事の現場をしっかりと理解して欲しいという。
 わたしに作業着を着て、オイルまみれになれという。
 わたしを除いて、整備工は2人確保しているという。ひとりは一度退社したはずの、葵ちゃんのお父さんと仕事をしていた30歳くらいの男の人。一時は葵ちゃんの下で働くことを強く拒絶したが、葵ちゃんの手伝いをすることがお父さんへの最大の恩返しになるのだろうと考えを改めてくれたらしい。
 もうひとりはキャバクラ時代に葵ちゃんと親しかった50代の男の人。今は別の整備会社で働いているが、葵ちゃんのためなら今の職場を辞めてでも葵ちゃんの手伝いをしたいと名乗りをあげてくれたらしい。


 そのふたりにもわたしの存在を告げてあるらしかった。松谷 英奈という若い娘が必ず手伝いに来てくれるから、どんなに厳しくてもいい。立派な整備士に育ててあげてくれと。


 葵ちゃんはわたしが協調性の全くない女だと知っていたはずなのに。
 正直迷惑な話だった。わたしはそんなおっさんと一緒に働く気はない。しかも、厳しく育ててもらおうなどとは論外だった。
 だから、はっきりと断っていた。曖昧な態度をとるのも嫌いだったし。


 ある晩中華料理屋でふたりで夕ご飯を食べていた。その日は他愛のない話をするだけだった。もう、わたしのことは諦めてくれたのだと思っていた。


 コース料理の最後のデザートが出てくるまでの間に少し時間がかかった。
「英奈。お願いがあるの。」
 もう、うんざりだ。わたしはキャバ嬢もデリヘル嬢も辞めるつもりはないよ。だから葵ちゃんと一緒に働くことは出来ないよ。


 葵ちゃんは立ち上がった。なに?立ち上がって頭を下げてもわたしの気持ちは変わらないよ。
 逆だった。葵ちゃんは膝をついて額が地面に付くくらい頭を下げた。土下座だ。
「お願いします。不自由をかけるかもしれないけど、わたしが成功するためには英奈の力が絶対必要なの。」


 葵ちゃんは必死で本気だった。でも、止めてくれ。こんなに綺麗な女の子がこんなところで土下座なんてするもんじゃない。葵ちゃんはいつでも胸を張って、自信に満ち溢れた表情をしていたじゃないか。そんな弱々しい姿は似合わない。


「お願いします。どうかわたしを助けてください。英奈と一緒じゃなきゃこの仕事は上手くいかないの。」


 わたしを使って金を掻き集めようとする者はたくさんいた。当時、わたしを囲って、わたしをデリヘル嬢として使っていた男も、キャバクラのオーナーも。
 だけど、こうしてわたしに向かって頭を下げてくるものなんていなかった。なにより、わたしを必要だと言ってくれる人間は初めてだったのだ。


 1か月後、わたしはキャバクラもデリヘルもやめて小さな鞄ひとつを持って葵ちゃんの自動車整備工場を訪ねた。まだ、寝泊まりする場所も決まってさえいなかった。


 キャバクラもデリヘルも辞めるのは滅茶苦茶大変だった。まあ、その話は今度することにしよう。


「英奈は元気だよ。葵ちゃんこそ元気でやってるの?」
「元気だよ。会社のみんなも元気。みんな英奈のことを気にしているよ。元気なのかなって。」
 葵ちゃんの会社は今では10人以上の社員を抱える大きな会社になっている。
「みんなに言っておいて。葵ちゃんの足を引っ張るなよって。葵ちゃんに迷惑をかけるようなやつは英奈が全部しばいてやるからねって。」


 全てを放り投げて自動車整備工場に入社して約9年。わたしは自信というものを片手に、生きがいというものを片手に持つようになった。その他にもわたしを慕ってくれる仲間や信頼してくれる後輩などたくさんのものを担ぐことが出来るようになった。


 どんなに離れていても葵ちゃんは一緒に戦った戦友だ。忘れることなど決してないし、なにか悩みがあるときは葵ちゃんならどう考えるのかなと、わたしの指針になっている。


 今のわたしがあるのは葵ちゃんと相方のおかげだ。一度、親からもらった命を捨てたわたしを生き返らせてくれたのはこのふたりなんだ。


 ふたりともわたしの掛替えのない誇りだよ。
だからふたりとも思いっきり自分のやりたいことをやってくれ。わたしは必ず支えるから。あなた達が産み落としてくれたこの命は、あなた方に尽くす為にあるのだから。

1月16日

 正午を過ぎたくらいにわたしの携帯が鳴った。電話の向こう側にいるのはわたしの親友でもあり恩人でもある葵ちゃんだ。
「英奈。最近どう?元気にしている?」
 元旦に今年もよろしく!というLINEのやり取りはしたが、声を聞くのは久し振りだ。最後に声を聞いたのは1か月以上前だろう。


 葵ちゃんと出会ったのはまだわたしが10代の頃だった。わたしが一番ぐれていたときじゃないだろうか。わたしは当時デリヘル嬢とキャバ嬢をやっていた。葵ちゃんはわたしが勤めていたキャバクラの先輩だ。初めて会ったときの印象は、
「こんなに綺麗な人がこの世にいるんだ。」
 雑誌で見るモデルより、テレビで見る女優よりずっと綺麗に見えた。他人にたいして興味を抱かないわたしだから、これまでに出会った女の顔というものをあまり覚えてはいないが間違いなく葵ちゃんはわたしの瞳に映った女の中で圧倒的に美しかった。美しさの中にもどこか可愛らしいところもあって、尚更インパクトは強かった。
 葵ちゃんはその店に入店したその月からずっと売上1位をキープしているとのことだった。美しくて可愛いだけじゃなくてお喋りも上手だった。葵ちゃんのついた席はいつでも笑い声が絶えることはなかった。本気で葵ちゃんを口説こうとする客はほとんどいなかった。そんなやつは大体新規の客で、葵ちゃんに一目惚れしてしまったやつばかりだった。


 あの女好きなうちの相方も言っていた。
「あの子は次元が違い過ぎる。」
 そのくらい光り輝いていて、眩しすぎたのだ。


 葵ちゃんのお父さんが亡くなったと聞いたのは、わたしと出会って数か月後のことだった。心筋梗塞というやつだったらしい。仲間とゴルフに行ったときに急に倒れてしまったらしい。それから二度と目を開けることはなかったと聞いた。


 わたしも通夜にも葬儀にも参列させてもらった。こんなドブネズミのような女が参列してもいいのかと不安だったけど。
 葬儀には物凄い数の人が参列した。そしてとても賑やかだった。お昼にみんなで弁当を食べて、少しだけ酒を飲んだりしたけどあれはまさに宴というものだった。
 わたしは葵ちゃんの父親の顔は見たこともないけれど、多くの人に愛されていたのだということくらいその場の空気で理解することが出来た。
 そういうところは娘の葵ちゃんもしっかり引き継いでいる。お父さんの葬儀なのに葵ちゃんの知り合いが何人も参列していた。同じ店で働くキャバ嬢とかお客さんとか。キャバ嬢のお客さんなんて昼間は大体仕事をしているサラリーマンが多いはずだ。それでも、彼らは時間を作ってしっかりと喪服を着て参列していた。それらの参列者は全員葵ちゃんに一言かけて帰るのだ。葵ちゃんは笑顔を見せることはなかった。真剣な面持ちでひとりひとりの参列者に頭を下げた。笑顔を見せなったのは父親を亡くした悲しさがあったからという理由ではなかった。参列してくれる人達に心から感謝の意味を込める為には笑顔では都合が悪かったのだろう。


 葵ちゃんの父親は小さな自動車整備工場を経営していた。従業員3人くらいの本当に小さな会社。
 父親が亡くなって葵ちゃんは自分がその工場を継ぐと言い出した。反対意見だらけだったらしい。自動車のことなどなにもしらない、夜の世界でしか働いたことのない人間の下では働けないと、残された従業員たちも全員退職してしまったらしい。


 直後にわたしに声がかかった。
「一緒に工場の経営するのを手伝ってくれないか。」と。


 わたしはふたつ返事でOKをするつもりだった。しかし、キャバ嬢もデリヘル嬢も止めるつもりはなかった。貧乏は嫌だったから。
 だが、葵ちゃんはそれをよしとしなかった。わたしの出来得る限りの時間と能力をつぎ込んで整備会社の仕事をしてくれというのだ。
「給料はどのくらいだしてくれるの?」
「月に30万くらいかな。」
 30万。当時わたしが稼いでいた金額の10分の1程度の金額だ。嫌だ。もう貧乏には戻りたくない。
 だから、わたしはその話を断った。


 ふう。少し長くなってしまったね。今日は疲れたのでこのくらいにしておこう
だけど、わたしと葵ちゃんの出会いというのは本当に奇跡的で運命的なものだった。後にわたし達は汗を流すというより、血を流す時間の方が長かったんじゃないかと思う程しんどい思いをした。


続きはまた明日聞いてくれ。決して退屈な話ではないから。