1月8日

 朝から狭い部屋で相方とふたりでパソコンに向かっている。別々のパソコンを睨んでいるんだけど、ふたりともさっきから、うんうんと唸っては横になって頭を整理しているばかりでキーボードを打つ音はほとんど響かない。今日はふたりとも調子悪いみたいだ。わたしにとっては珍しくもないことだが、相方がここまで行き詰っているのは珍しい。やはり正月ボケから抜け出せていないのか。


「昼飯どうする。」
ああ。もうそんな時間になるのか。
「自炊。」
 そう答えてわたしは相方の目の前に腰を下ろした。
「最初はグー!」
相方の突然の掛け声でどちらが昼ご飯を作るかを決める大事な勝負は始まる。
「じゃんけんぽん!」
わたしの目の前に突き付けられた相方の掌は大きく開いていた。わたしはというと小さな握りこぶしを差し出していた。


はあ。面倒くさい。なに作るかなあ。冷蔵庫にはなにが入っていたっけ。
気落ちしているわたしに相方は満面の笑みで語りかけてきた。
「なんで勝ったか教えてやろうか?」
なんだか知らないがえらい自信満々な表情をしている。
「なんで?」
「簡単だよ。人間、最初はグーって言われるとそのグーを肘を曲げて上に振り上げてから、また振り下ろすんだ。その振り下ろすときの手の形を見れば相手がなにを出すのか分かるんだ。」
 もっともらしく語るが、この人のいうことはいつもどこか間抜けている。なにより切り札を自慢げに語るあたりがアホくさい。切り札は先に見せるな。見せるならさらに奥の手を持て。とわたしはあんたに教えられたことがあるんだが。
「じゃあ、もう1回やろうよ。今度は3回勝負。」
「別にええよ。じゃあ、最初はグー!」


 結果は3勝0敗。もちろんわたしの勝ちだ。切り札の種を知ってしまえばもうそれは切り札としての役割を果たさない。ようは手を上に振り上げなければいいんでしょ。
 まあ、仮に振り上げたとしても、さっきのはたまたまで手を下ろす瞬間の手の形なんて目で追えるはずがないと思うけど。


 これで、諦めるような相方だったらわたしはもっと楽をしていただろう。いや、ここで諦めるようなやつだったらもうとっくに別れていたかもしれない。


 こっからが恐いのだ。うちの相方は。
「もう1回だ。」
 もう1回お願いしますとは決して言わない。この人がもう1回と言ったらもう1回なのだ。それを無視すれば、わたしの今日の昼ごはんは冷たい白飯に梅干しひとつだろう。
「最初はグー!じゃんけんぽん!」
 はい。負けましたよ。あなたにはかないませんよ。何回勝負だかも決めていなかったけど、その1回の勝利で相方は鬼の首でもとったような笑顔をしている。


 子供か。
 まあ、そんなところが好きなんだけれど。
 だけど、昼ごはんも夜ご飯も卵チャーハンだよ。それだけは文句言うんじゃないよ。

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