2月21日

 引き続き、龍平の恋愛観というのを纏めてみた。
 断っておくけど、わたしは龍平の恋愛観には全く賛同出来ない。愛したものがいれば自分も長く生きて愛を感じていたいし、相手にも当然長生きしてほしい。
 だけど、こういう人間がいても面白いとは思う。というかいるんじゃないだろうか。この世のどこかには。
 以下が、龍平の持つ非常に偏った恋愛観の全てである。


僕は君のことを死ぬほど愛している。
君の為なら死ぬことだって怖くないし躊躇いもしない。君の身を守る為なら楯になって死んでも構わない。君に血が大量に必要になれば僕の身体の血液を全部捧げるよ。
 でもね。君の命を守る目的以外でもこの命は捨てられる。もしも君が望むなら、大義がなくても死ねるのだ。そのくらい僕の命は軽い。この愛に比べれば。僕はもう人が人生の全てをかけてでも手に入れたいと願うものを得てしまったのだから。人生の目的を果たしたと言ってもいいのだ。
 だけどね。その逆が起こってしまっても僕は素直に受け入れられると思うのだ。例えば君が亡くなってしまっても。もちろん長く生きて欲しいと思うよ。長く生きればこれまでに味わったことのない幸せを噛締めることもあるだろうから。ただ、君は君の為の長生きをしてくれればいいのだ。僕は君からもう十分幸せというものを分けてもらった。この身体には納まりきらないくらいのね。だから、君が亡くなっても絶望することはないだろう。いつでも君の顔を思い出せる。君の声もずっと耳の奥に残っている。君の言葉を思い出して君の思考を蘇らせることも、僕には伝えきることが出来なかった気持ちを想像することも可能なのだ。僕はもう君の命をもらったようなものだ。僕の心の中で君は成長し続けるのだ。君の命の火が消えてしまっても君は僕の中で永遠に生き続けるのだから、なにも寂しいことはない。溢れるばかりの愛を与えてくれたのだから、もう僕はなにかに飢えることもない。君以外の女に愛を求めることもない。
 非常に矛盾したことをいうようだけど、君はまだ死んではいけないよ。だってまだ僕は君に十分な愛を渡すことが出来ていないのだから。これからもっともっと幸せな気分になってもらいたいのだから。これからの君の時間は受け取るために使うのだ。長い長い時間をかけて僕から愛と幸せを享受するために生きるのだ。


「どうかな?」
 自信はないけど、自分なりに一生懸命考えたつもりだ。拙いながらもそれなりの設定を作ることが出来たと思っている。だから良ければわたしを褒めてくれないかな。


「いいんじゃないか。もうちょっと熱く、細かく語って欲しいけど今はネームの段階だからこのくらいでいいだろう。」


 よかった。ある程度相方を満足させることが出来た。この1週間、このことばかり考えていたんだ。やっと肩の荷が下りた。


「それで、姫奈はなんと返すのかな?」


 マジ?
さすがにキツイ。というか少しは相方の力も貸してよ。わたしひとりでこんなことを続けても多分面白いネームにすらならないし、時間がかかり過ぎる。


 なんとか、わたしが考えた龍平の思想に対する姫奈の答えは相方に作って貰うことでOKを貰った。
 小説のネームというのはこんなにしんどいものなのか。わたしはてっきり、キャラクターをいうものは自分の持っている世界観の中から造り出すものだと思っていた。だけど、それは誤りだった。
 ときに自分の常識や見解を飛び越えるようなキャラクターというものを造り上げなければならないのだ。


 物書きというものはやはり人外の生き物の様な気がする。論理的で、緻密な計画や段取りで物語を作る一方で、時には自分の脳や感情のキャパを超えなくてはいけないのだ。


 わたしと相方の間には真っ赤な太い境界線がある。今はまだ足が震えているから無理だけど、いつかこの線の向こう側の世界というものも見てみたい。

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