3月11日

 人外のわたしは今日も闘う。
 相手はもちろん目の前の敵だ。
 自分との闘いなんてもうしない。そんなことは人のやることだ。


 今のわたしは絶滅寸前のネコ科の虎だ。剣歯虎というやつだ。
 異常に発達した前歯の牙だけを頼りに狩りをする。


 捕獲しなければいけない餌たちはどんどん進化して小型化していく。
 自分より大きな獲物を狩る為に太く、長くなった牙はもう不要なのだ。


 だけどわたしも狩りを続けなければ飢えてしまう。
 絶滅してしまう。


 その為に自分より身体の大きな生き物を見つけてはそれに噛み付く。
 ネズミを捕える能力はなくても、象に噛み付く牙は残っているのだから。
 執拗なまでに牙に固執するしかない。


 この牙は既に過去の遺産であり、残された誇りなのだ。


 人外のものにも誇りは必要なのだ。
 いや、人外だからこそ誇りにしがみ付かなくてはいけないのかもしれない。

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